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リーメンシュナイダーめぐりの日
2006-10-07
ローテンブルグに連泊する中日の今日、ヴュルツブルグと小さい村々への一日観光をオプション提案していた。表向きはヴィルツブルグには世界遺産に指定されたレジデンツがあり、そこがウケルという事での設定である。

しかし、小松が見てもらいたかったのは、リーメンシュナイダーの作品達である。リーメンシュナイダーは1460年-1531年、南ドイツ地方動乱の時代に生きた後期ゴシック木彫マイスターの最高峰なのだ。

***
ローテンブルグから田舎道を30分ほど行った場所にクレクリンゲン村がある。村はずれの丘、元の畑にヘルゴット教会が位置している。

14世紀にそこを開墾していた農夫が、地中から「聖餅」を見つけた。これはカソリックのミサにつかうまるい煎餅みたいなもの。キリストの肉体をあらわすとされる。

農夫はこの奇跡に感謝し、それに共感した騎士や地元領主が教会を建た。これがこの教会の起源。ローマ法皇もこの奇跡を認め、16世紀はじめまでは多くの巡礼を集めていた。当時一流のマイスター、リーメンシュナイダーに祭壇彫刻を依頼するほど栄えたのだ。

我々はヴィルツブルグからの帰り、眠たい午後の時間だったが、この教会に寄った。たいして大きくない堂内へ入ると、思いがけず男性の合唱がきこえてきて、はっとする。

祭壇の脇で、一般の観光客とおぼしき男性達5人ほどが指揮にあわせて賛美歌を歌っている。その声が堂内をさらに静かに感じさせる。私も解説はせず、皆さんもしばらく座って耳を傾けていた。

この時間は、思えばとても濃密な得難い時間であった。リーメンシュナイダーが五百年前に刻んだ精緻な美しいマリアは、あれこれ説明するよりもこうやってじっくり見ることの方が大切なのかもしれない。

この祭壇はリーメンシュナイダー40代後半円熟期の作品である。彼はその当時の「祭壇は色を塗るもの」という常識を拒否し、木の味わいを残したままで完成とした。カラー祭壇が当たり前だった時代に、いわばあえて白黒で勝負をかけたのである。

これは彫刻家としての技量を誇っているとも言える、色を塗って誤魔化す事を拒否している。

彼が独り立ちしてからの作品はほとんどがこういった無彩色だったのだが、惜しいかな後世に教会が別の人に頼んで色を塗らせたものが多い。多くの博物館所蔵品は丹念に彩色をはがし、オリジナルを再現したものである。

しかし、このヘルゴット教会の祭壇には、幸か不幸か彩色されるタイミングはやってこなかった。宗教改革の混乱がその時間を与えなかった。

この祭壇が完成したのは(およそ)1510年。
宗教改革は二十年後にこの町にも及ぶ。領主ブランデンブルグ・アンスバッハがプロテスタントに改宗したのである。

プロテスタントの教会では豪華な祭壇は不要とされ、打ち壊されたものも多い。カトリックの象徴のような巡礼教会は閉められる。

豪華なリーメンシュナイダーの祭壇も閉じられ、布でぐるぐる巻きにされて、仕舞い込まれてしまう。人々も長い間にその存在の記憶さえなくしていった。永い眠りの時代がやってきた。

祭壇が再び開けられたのは、なんとそれから3百年後の1832年。教会が再び使われる事になり、寺男が閉じられていた祭壇を開けると、そこには見事に作られた当時の色彩を留める聖母被昇天の木彫があったのである。

最初、この作品は誰の手によるものか分からなかった。リーメンシュナイダーという名前さえ、歴史の波に飲み込まれてしまっていたからだ。

彼の名前にスポットライトがあたるのは1822年、ヴィュルツブルグの大聖堂墓地を改宗している時に、偶然墓石が見つかってからの事である。

郷土史家達が丹念に記録を調べ、実際に残る作品を検証して、はじめて、どれがリーメンシュナイダーの作品であるかを見極めていった。

三百年間封印されていた事によりこの作品は、他のどのリーメンシュナイダー作品よりも、タイムカプセル的に、彼の真価を実感させてくれる。誰が見ても、凄みさえ感じさせる彼の技巧に驚嘆するほかない。



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