熱心な読者だったわけではないが、好きな作家であった。

映画化された「漂流」とか、代表作としてよくでてくる「戦艦武蔵」などいろいろな作品がある。けれど、個人的には前野良沢を描いた「冬の鷹」（杉田玄白でないところが吉村昭だ）。種痘の日本への普及につとめた笠原良策についての「雪の花」などが印象に残っている。

彼の描く人々というのはどこか孤独で、それでも自分の道を踏みしめて歩いている。文学というのが、孤高の道を行こうとする人を励ます役割を持っているのだとすれば、吉村昭の作品にはその力がある。

取材ノートというのも出版されている。
はじめは「ちょっと心に引っかかる」程度の事でも、丹念に微細においかけていくことによって、思わぬ実像にたどり着く事があるときがつく。もうとっくにこの世にいない誰かの強い思いを理解させてくれる事がある。

旅で出会うちょっとした気になる事々。これらをそのままにしないことで、私も吉村氏がフォーカスしたような人々・事々に出会えるように願う。