
「すばらしい」と言われるものは多いが、本当のところその何が「すばらしい」のかを説明する事は簡単ではない。
また、それを人に説明して納得してもらう事は難しい。
*
イタリア最南部に位置するシチリア島。その州都パレルモから南へ8キロへ行ったところに、目を奪う黄金に輝くモザイクで飾られた大聖堂がある。
12世紀ノルマン王朝時代に造られた黄金のモザイクは、誰が見てもひと目で「すばらしい」と思うだろう。これまで小松も何度もみてそう思ってきたが、今回いつもの倍以上の時間をかけて説明していただき、なるほど本当に「すばらしい」と感じたのだった。
その具体的なひとつが、この写真の表現。
下の部分で、ノアが方舟から鳩を放っている。その下で、水の中に溺死した人が何体も浮かんでいる。※上の部分は神の天地創造から「植物の創造」
水の中に揺らめく人間の肉体をモザイクでどう表現したのかを見ていただきたい。肉体の線をを直接描くことなく、水の揺れの濃淡と色彩と線の太さを変えて、巧みに表している。※拡大してごらんください。
ビザンチン時代のモザイクというと、「形式的・様式美」という印象で語られているが、どっこいここでは充分に写実的な表現がなされている。
「ビザンチンの職人は写実表現は出来ない」などと思い込みで見ていては見えてこない真実だ。
巧みなモザイク表現に圧倒されながら、ガイドしてくれたマニュエラさんに「作者は誰ですか?」と訊ねた。が、「この時代には職人はまだ署名もしないからまったく分かっていないのよ」との答えだった。
これは、名を残すための仕事ではなく、神に捧げる仕事だった。