きのうの日記に続けて、リスボン「古美術博物館」収蔵のヌーノ・ゴンサルヴェス作「聖ヴィセンテの祭壇画」について。
*
背景に居並ぶ人々の肖像が、それぞれ別々の視線を向けていて、まるで張り合わされたように見える。
これは、つまり、実際にモデルを見ながらデッサンした原画があるのではないだろうか。
作者は元のデッサンを尊重するあまり、大画面の中での調和は敢えて考えない事にしたのだろう。ヌーノ・ゴンサルヴェスの「肖像画コレクション」という趣になっている。
**
ひと目見て、ルネサンスではなく中世フランドル風の絵だと感じた。
柔らかさよりも硬さ、優しさよりも厳しさを感じさせる描写なのである。
これが描かれた15世紀というと、現ベルギーのゲントにある「神秘の子羊」が1432年にファン・エイク兄弟によって描かれている。
ヌーノ・ゴンサルヴェスという人の生涯を検索してみると、案の定フーゴー・ファン・デル・グースというブルージュの画家の父と共同制作していたかもしれないとあった。
ファン・デル・グースの作品は、フィレンツェのウフィッツィ美術館で、あの「春」や「ヴィーナス誕生」と同じ部屋にかかっているものをいつも見て記憶に残っている。
それは、向かいにかかっているボッティチェリとはあまりに違う描写で、空気や光にまで北方の冷涼さがあるかのように、対照的だった。
この巨大なパネルの隅々まで、15世紀のフランドル直伝の緻密さが生きている。ルネサンスではない。
人物の描写については、ゲントの「神秘の子羊」と比べてもひけをとらない出来だと思う。
****
このパネルは、かつてどのような枠にはめられていたのだろう?現在のモノはどうみても後年にもう少し大きかった原寸から端を切り落としているように見える。
実際のところどんな経緯でこのようなかたちで展示されることになったのだろうか?