上野でひらかれている「エル・グレコ展」へ。
マドリッドへ行く度に、プラド美術館のエル・グレコ作品を見ている。トレドの大聖堂やサント・トメ教会でも、いろいろなガイドさんに、いろんな角度からの話をきいてきた。だから「もういいか」とも思っていたが、やはりこうした機会にあらためて見ておいてよかった。
自分が好きなのは肖像画家としてのエル・グレコ。聖人を描いている時でさえも、誰か特定の人物をモデルにしたのだろうと思わせる作品での描写にひきつけられる。きれいな聖母子ではなく。
なかでも、この聖パオロの肖像。本と、その上に置かれた左手のコントラストを何度も見に戻った。
経歴紹介の中で、「若い頃に細密画家として親方資格をとった」とあったが、この絵の中で、本の部分にはそういった細密画の技量が感じられる。対して、上に置かれた手は後年のグレコ独自の人体表現である「ゆらめき」やあらい筆遣いがはっきり見える描き方。
本と人の手、というコントラストを、自分の持っている二つの技量をもって描き分けているように見えた。
この作品は「個人蔵」。つまり、こういった展覧会の時にだけ公共の場所に貸し出される作品である。見られて良かった。
他、多くの作品があったが、プラドにある作品の小型版については、ずいぶんちがうなぁという気持ちが先にたってしまう。大きな祭壇画が好評だと、それを見てその小さいヴァージョンを所望する人も多かったのだろう。それはもちろんよくできてはいるのだが、いわば「おみやげ用」なのである。
または、大作を描くときに用意したいろいろなヴァージョン試作というのも、ある。