オスマン・トルコ二度目の首都=エディルネの古いモスクで。イスラム教徒とおぼしき観光客が、壁の少し高いところに一生懸命触ろうとしていた。
なんだろう?と思ってあとからそこを見に行くと※写真上 装飾された壁の真ん中に丸く黒い石がはめ込まれている。ガイドのアヴニさんに訊ねると「ははぁ、これは面白いものですよ、カーバ神殿の石です」と教えてくれた。
なるほど、だからイスラム教徒は触りたかったのか。
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カーバ神殿はイスラム教の聖地メッカの中心。ノアの洪水の後、行方がわからなくなっていたのを、アブラハムが神に教えられて発見し、住んだという神殿。だから「アブラハムの家でした」と説明されたりする。
神殿の壁にはアダムイヴの時代に遡るというその黒石がはめ込まれている。もともとはアミニズムの時代に太陰暦の日数と同じ数の崇拝物のひとつとして置かれていたものだったが、イスラム教の預言者ムハンマド(マホメット)他を全て破壊して、この黒い石だけをカーバ神殿の壁に埋め込んだ。
イスラム教徒の巡礼ではこの黒い石に触れることが重要な意味を持つ。偶像崇拝を禁止しているイスラム教としては珍しい、物そのものへの崇拝だ。「隕石です」とのことだったが、黒曜石とか天然ガラスとか説明してあるものもあった。
**下の写真
他日、イスタンブルのソコルル・メフメット・パシャ・モスク※ここもミマル・シナンの建築で、とても美しいタイル装飾が見られる。
小さなモスクは午後一時にやっと管理人が鍵をあけてくれた。我々の他数人が待っていたが、その中のイスラム教徒がミンバル(説教段)の入口の高いところを触ろうと奮闘しはじめた。
見ると、伸ばした手の先に小さな黒い石がはめ込んである。そうか、これもまたカーバ神殿から削ってこられた石だったのか。
我々日本人の持っているガイドブックにはそういうものの存在は書かれてないが、どうやら彼らの持っている案内本には、モスクにあるイスラム教の崇拝物についての説明がたくさんされているらしい。
同じ場所を訪れても、見る人によって見えてくるものは違うのである。