《手造の旅》北スペイン第8日目、サンチャゴ滞在。
巡礼たちがサンチャゴ・デ・コンポステラの大聖堂に着くと必ずくぐってきた「栄光の門」。二百体にのぼる人物が彫り込まれた、ゴシックに限りなく近づきながらもロマネスクの表現にとどまっている素晴らしい作品だ。
大聖堂の支払い台帳にその名がある事で、12世紀にマテオという人物がその作者だと分かっている。その、ただ名前だけが現代に伝わる人物が自分の姿を刻んだと伝えられている像が、「栄光の門」の後ろ側にある。
※この像と頭をくっつけると知恵が授かるのだそうだ。
この時代に、マテオは「職人」として仕事をした。それがいかに優れたものであろうとも、ルネサンスの「芸術家」のようにそこに名前を残すことは驕りである、と教会から拒否された。
よって、マテオは名前ではなく「私がした」という意味の言葉をアルファベット略文字で刻むのに止めざるをえなかったのである。
★像の左上のところに「F…」の文字が読み取れるだろうか。これはラテン語のFACTUM(=英語のDONEにあたると言えば近いのではないか)を刻んだものだと解釈されている。
この文字と共に、胸に手を当てているマテオは「これは私が成したものだ」と微笑んでいるかのようである。