ヴァレンシアの火祭りの見所のひとつは、最終日3月19日の前に行われる献花式だろう。
「献花式」という言葉から想像されるものとは、規模も時間も費用も桁違いのスケールで展開される。それは、ヴァレンシアの人々が年に一度総出で繰り広げる神に感謝する儀式。
我々は旧市街から徒歩圏にあるホテルで夕食を済ませ、すでに22時近くになってから歩き出した。途中でいくつもの行列と遭遇する。数限りない行列が、それぞれに楽隊を引き連れて大聖堂を目指しているのである。
三歳ぐらいの子供達から車椅子の人たちまで、それぞれが意匠を凝らした十九世紀風の衣装に身を包んでいる。まさに老若男女それぞれ、年代に似合ったスタイルを誇らしげに見せている。
カメラをむけると、ドレス姿の女の子達は皆嬉しそうにポーズした。
手に持ったそれぞれのブーケは大聖堂の裏手に置かれた巨大な聖母マリアの像に献花される。
間違ってはいけないのは、これは単なる陽気なパレードではないということ。最初は陽気に騒いでいる人々も聖母マリア像を前にすると皆静かに慎み深く居住まいを正し、目に涙さえ浮かべていた。