オウム事件で指名手配されていた平田信が、昨年大晦日に突然警察に出頭した時、彼の逃亡を十六年と十ヶ月にわたって支えていた斉藤明美という女性が居た事が印象に残っていた。

文芸春秋四月号で、平田本人が弁護を依頼し斉藤の出頭にも動向した弁護士が短い手記を寄せている。そこで、二人の逃亡の年月がどのようなものであったのか、垣間見る事ができる。

オウムという組織を離れた一個人がそれだけの年月逃げ続けられたのは、彼女が全面的に彼を守っていたからに違いない。そこに、打算はない。愛だけがある。

夫婦であっても親子であっても、現代の社会で「愛」のように見えるものの多くには「打算」がついているのではないか。だから、そんな世界にあって、この二人の「純愛」ストーリーには何か心惹かれるものが感じられる。「たとえあなたが何者であっても」という言葉を実践するのは簡単な事ではない。

息を潜めて生活する平田と共に2000年にはウサギを飼い始め、そのウサギと共にひとつの家族だった十年。その年月が終わったときに、出頭することを決めていったという。

アメリカなら間違いなく映画化の話がくるでしょうね。