「バーナーの火をあてたらくるくるっと丸まっちまってねぇ」
外国のコインをペンダントに加工して売っている社長の声が聞こえたので、も少し話をきいてみた。
「アメリカの一セントっていつからか銅じゃなくなくなってたんすよ、だから火を当てると溶けちゃう」
ちょっとべらんめぇの職人調の言葉で話す彼は、実際金属メッキの職人だった。退職後、ぴんっとひらめき、その技術を生かして外国コインの加工販売という商売をはじめ、旅行会社にウリこんだ。
日夜、いろいろなコインを加工しているので、その変化ははっきりわかる。
一見同じように見えるアメリカの一セントコインの材料が変わっていたなんて、アメリカ国民だってそうそう知らないのではないだろうか。
ちょっと調べてみると、アメリカの一セントコインの材料は、確かに1982年に変更されていた。それまで銅95%、亜鉛5%だったものが、逆転して97.5%の亜鉛と2.5%の銅になった。これは表面を銅コーティングしているだけの銅の分量だから、銅⇒亜鉛に材料変更されたと言ってよい。
銅は融点1083.4℃なのに対し、亜鉛は419.5℃。つまり格段に解けやすい。バーナーの炎というのは内炎で500℃ということだから、銅ならば溶けないが亜鉛ならば溶けてしまう。なるほど、職人社長が手で感じたことが数字でも証明できる。
では、なぜ、そのような変更が必要だったのか?
銅という金属の価格上昇が原因である。一セントに含まれる銅の価格は1984年に一セントを越えてしまった。単純に考えると一セント銅貨は溶かして金属として売ったほうが高く売れるようになった。さらに加工コストも加わるので国は一セントをつくる毎に赤字をつくる事態となる。それはまずいでしょう。
銅の価格は2011年10月一ポンドあたり33.4ドル、それに対し亜鉛の価格は0.86ドル。現在では材料費だけで3.8倍になるところだったのだ。銅製の一セントにはもどることはないだろう。
冒頭の職人社長は一セント銅貨加工の依頼がきた時のために大量に古い一セントを集めているのだとか。シャチョー、それ、溶かして売った方が儲かるかもしれませんぜ(笑)
※写真左は1979年銅製の一セント、右は2002年亜鉛製の一セント。黒く汚れていたりする違いは成分によるものではない。見分けなどつきません。