6月4日の午後、バルセロナでの自由時間。
グラシア大通りのカサ・ミラ前の地下鉄駅からランブラス通りのリセウ劇場前までの三駅を地下鉄で移動した。
観光客利用の多いこの路線では、以前にもスリに狙われた事があった。だから「居る」だろうと予想はしていた。
切符を買ってホームに入る前に、皆さんに向き直って、あらためて注意喚起をしておいた。
駅は空いていた。誰か不審な人が寄ってくればすぐに分かるだろう。内心、皆安心していたのだと思う。
遠くから列車の音が聞こえてきて、列車が姿をあらわす。はじめてみる地下鉄に興味津々の皆さんはカメラを向ける。車両がゆっくり停車しドアを開く(レバー式になっている)。
数人降りる人があって、乗り込む。十五人近くの数なので三つの扉に分かれる。と、そこへ駆け込んでくる数人の男があった。
閉まりそうになった扉のところでぎゅうぎゅう押し合いしている様子が、となりの扉から乗った小松から見えた。「あ、なんか変だ、あぶないなぁ」と、思ってから扉が閉まるまで二秒もなかっただろう。後ろから乗ろうとしてたた男は、閉まる扉をこじあけてホームに降りたのだった。
動き出す電車。
「大丈夫でしたか?」
「ええ、大丈夫」
しかし、しばらくして・・・ズボンの後ろポケットに入っていた小さな財布がなくなっている事が判明した。
ボタンがかかっていたポケットだったが、それでも引っ張り出せる程度の小さな財布だった。
「日本の混んだ電車ならよくある押し方だったので、『なんだこいつ』ぐらいの気分だったのですよ」と話されていた。
実害はそれほどなくてほっとしたが・・・やっぱりバルセロナの地下鉄には「居る」のである。観光客が降りてくるのをホームで待ち構えて「居る」。