スペインの南端にあるイギリス領土ジブラルタル。
ここはスペインの観光バスは入れない。我々も徒歩にて、この写真のゲートを通って入国する。もちろんパスポートを持って。
十八世紀始めに起こったスペイン継承戦争の結果、現在に至るまでイギリスが手放さない重要な戦略拠点である。
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朝、カルモナのパラドールを出発してすぐに渋滞にぶつかった。普通なら四十分で着くセビリアの町の手前でもう一時間を過ぎた。街の手前にあるきのう到着したセビリア空港でトイレを借り、その後一目散にロンダへ向かう。
予定よりも四十五分近く遅れてロンダの街へ入ったが、ベテランの運転手アントニオさんはいつもはバスでは入れない旧市街の闘牛場の傍まで入って下ろしてくれた。これで十五分は時間を回復できる。
十五分回復しても、予定の観光時間はすでに四十五分しか残されていない。闘牛場へ入場して、有名な「新橋」を上から眺望していただくのがせいいっぱいだ。 ロンダではいつも時間が足りない。旧市街の奥、「新橋」を渡った向こう側にはアラブ時代にまでさかのぼる古い町並みが遺されているのだが・・・。
昼食を終えて、14:15にはロンダを出発。
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ジブラルタルを訪問するのは何年ぶりになるだろう。五年、いやそれ以上は来ていなかった。そのわりには印象的な場所なので、前回の記憶はよく残っている。スペインのバスを降り、歩いて国境を越えると、そこは英国的な、またはいろいろな国が混ざり合った雰囲気のする街になっている。
前回ガイドしてくれた方は、言葉遣いから服装まで英国的に扮装したような人だったが、今回待っていてくれたドライバーズ・ガイド二人(ツアー人数が28人と多いので一台のミニバスには乗れない)は、雰囲気スペイン人であった。
しかし、そこは英国領に住む人でさすがに上手に英語を話す。こちらもだいぶんやりやすい。
リーダー格のひとりが「僕はジェリー、ほら、『トムとジェリー』の。」と自己紹介。 私が「KOMATSUです」と言うと、「え?THOMAS」と、よくある聞きまちがいをしてくれる。
訂正するよりも覚えやすい名前で呼んでもらうほうが便利なので「トーマスでいいよ」と言うと、「じゃあ、僕たち二人で『トムとジェリー』じゃないかぁ!ああ、楽しい!」といきなりノリが良くなった。
ジブラルタル名物の猿に餌をやりながら「ここの猿はパスタを太ベるんだよ、トム」、「日本の猿も顔がこんなにピンクなのかい?トム」などと、話の最後でいつも名前を入れてくれる。
だから、こちらも「そうなんだ、日本の猿はこんな風に顔がピンクなんだよジェリー」って答えてあげるわけだ。
彼はほんとに最後まで親切で、もう一人の運転手さんが時間で仕事を終えた後も、自分だけ予定時間を三十分延長してまで、旧市街を歩く時間をほしいという我々の希望を叶えてくれたのだった。
短い時間の都市滞在は、こういう「人の印象」がとても大きい。ジブラルタルという街に、小松も含めて今回の旅メンバーの多くがこのジェリーさんを思い出すことだろう。
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18:30ジブラルタルを出てコスタ・デル・ソルの中心都市のひとつマルベーヤへ向かう。
エル・フエルテという旧市街へも徒歩圏のホテルへ宿泊。夕食は自由なので21時にご希望の方と市内散策へ出発し、その帰り22時ちかくになってからレストランへ入った。
食べ終わって店を出たのが23時50分。ちょうど真夜中にホテルに着くと、突然ドン!と低い音が聞こえた。「車でもぶつかった?」と一瞬思ったが、しばらくして何度もこの音が聞こえ始めたので「あぁ、花火なんだ」と気付く。
ホテルの海に面した庭から、日本的に美しい花火が大きく手を広げてくれていた。