ゴールナーグラート鉄道リッフェル・アルプ駅を09:08に出る列車で下山、ツェルマットからティーシュまで氷河特急の線に乗り、バスに乗り込む。
氷河特急自体には乗らない。
今日行こうとしているフィッシャー・アルプからエッギスホルン周辺は、氷河特急が通る谷を見下ろす位置にある。絶景を楽しみたければ、途中駅から尾根に上がる必用があるのだ。
今回スイス《手造の旅》の行程を造る中でいちばんこだわりたかった場所。当初は途中で寄るだけのつもりだったが、あえて一泊を入れた。
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ティーシュから一時間半ほどでフィーシュへ到着。ここからフィッシャー・アルプへあがるゴンドラは二種類ある。今回大きいゴンドラにスーツケースを持って乗り込むことになる。フィッシャー・アルプを降りて目の前にあるホテルにチェックイン。時間はまだ正午になっていない。
空は晴れている。
これなら尾根へ上がればアレッチ氷河の大パノラマがきっと見渡せるだろう。
急いでホテルを出て再びゴンドラに乗り、標高約三千メートルのエッギスホルン下の展望台へ到着。
尾根を越えた瞬間にアレッチ氷河が眼下に広がる光景は迫力満点。
展望台でツェルマットのホテルでつくってもらったおにぎり弁当を食べ、もうひと歩き楽しみたい方とエッギスホルンの頂上を目指す。
さほど遠くない、片道三十分もかからない距離だが、岩をよじ登るような場所もある。今日は雪も残っているので自分の体力を見極めて自己判断してもらう。
しばらく行ったところで「私はここまでにしときます」と戻られたお二人はえらいです。
標高も高いので岩を登っていくと息も切れる。しばし止まっては息を整えてふたたび足を上げる。
エッギスホルンの頂上は岩の上に十字架が建てらたほんの小さな岩の先端である。五人も立てる場所はない。各自とがった岩の上に自分の場所を確保しながら三百六十度の絶景を眺め渡す。
遥かかなたにユングフラウ峰がそびえ、その下から長さ23キロメートルにもなるヨーロッパ大陸で最大の氷河が流れ出す。ユングフラウ鉄道の途中駅から見られるこの氷河だが、エッギスホルンからはその終わりに氷河湖が流れだしているのまでが、一望のもとに見わたせる。
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午後3時過ぎにはホテルの部屋に入り休憩。
あれだけの絶景に出会うと、今日の目的は充分果たした満足感がある。
午後4時、フィッシャー・アルプからベットマー・アルプへ方向へ歩きに行く。今度はごく楽なハイキングコース。以前一度だけここで昼食をとった時には谷の向こう側は全く見えない天気だった。
今日は谷底をゆく氷河特急と対岸の村々、その上にそびえる雪山まで見渡せる。まったく天気によって同じ場所とは思えない状況になる。
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午後六時半、ロープウェイも止まり、静かになった小さな村。
ゆっくりとホテルで夕食。向かいのレストランに飼われている二匹のワンちゃんが時々吼える。雪山もだんだん夕闇に落ちてゆく。
こういう小さな山岳ホテルで過ごすゆっくりとした時間こそが旅する価値だと思える。明るい月が藍色の空にのぼっている。