ヴィーンを出発しザルツブルグへ至る一日。
ヴィーンから一時間半でデルンシュタインの村へ到着。ドナウ川の流域で人気の観光クルーズがこのヴァッハウ渓谷である。
五月の日曜日。
地元ヨーロッパのドイツ人やスペイン人も乗り込んでクルーズ船は混雑している。
川辺に見える村々にはマイ・バウム=五月の木と呼ばれる飾り柱が立てられ、春の訪れを祝っている。
船上にはいつもはいない楽団が乗り込み、民族衣装でいろいろな曲を演奏している。年代も雰囲気も様々な彼らはどうやら地元のアマチュア楽団に違いない。
ひとしきり演奏を終えると彼らも記念写真を楽しんでいた(この写真)。
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二時間半のクルーズの後、メルクに到着。
どうした手違いかバスがまだ到着していない。 バスが来るのを待てばあと三十分はこのなにもない波止場に居なくてはならない。 徒歩でレストランまで行けなくはないが・・・ううん、悩むところだ。
結局、少々急な坂になるが、門前町の旧市街を見られる楽しみも考えて、修道院まで歩いていく事にした。
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昼食後メルク修道院の内部を見学。
何回か内部見学のツアーに参加したが、その度に違う英語ガイドにあたっている。今回は修道院併設の学校に8年在学したという若い大学生風な男性であった。
同じ展示物を前にしても人によって全く解説の角度が違うので飽きる事はない。 彼はわりに淡々と事物を説明する。こちらがあえて求めなければ、聖人についての詳しい由来も説明しない。
日本人団体の多くはそんなに詳しい事は求めていないから、ま、それでもよいのだろう。しかし、小松が思うにそういった細部にこそ時代を生きた人々の息吹が感じられるし、それが歴史を知る面白さなのではないだろうか。
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ザルツブルグのクラウンプラザホテルに到着した時には、あと五分で午後7時という時間になっていた。
チェックインしてからホテルでゆっくり食事をしたいところだが、今日はなんと午後8時からミラベル宮殿でコンサートを鑑賞する予定になっている。7時45分にはホテルを出発しなくては間に合わない。
部屋には行かず、ダイニングに直接行って食べ始めた。
が、スープがさっと出たきりその後延々待たされてやきもき。
日本人は食べ物が出されさえすれば、ささっと食べてしまうもの。欧米人にそういうサービスを求めても難しい。
ついにデザートは目の前であきらめて、コンサート会場へGO!
開演の3分前に会場へすべりこんだ。
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ミラベル宮殿の「大理石の間」は、モーツァルトも父や姉と演奏した事がある場所である。
室内楽演奏に最適の音響と適度な狭さである。
演奏者が登場し、第一バイオリンの女性がアジア人であるのを見て、我々は「あ、日本人だ」と自然に思っていた。
彼女はあと三人の欧米人演奏者(名前から推察するとロシア(スラブ)系、ドイツ系、フランス系)をしっかりリードし、ぐいぐい引っ張り、自然に従えてカルテットを取りまとめている。
ハイドンとモーツァルトの分かりやすい曲を楽しげに悠々と聞かせてくれる。
特にハイドンは、昨年記念の年(没後二百年)のツアーで何度か聴いた時とは全く違う印象になった。今回の演奏は全く退屈を感じなかった。
「さすが日本人は活躍しているなぁ」と、プログラムを見ると彼女の名前はKIMさんだと分かった。なるほど、どの世界でもコリアン・パワーはすごい。
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午後9時半、演奏が終わりミラベル宮殿の外へ出ると雨が激しく降っている。暮れ残りの空に白くザルツブルグ城がライトアップされていた。