ローマ市内観光の一日。
ヴァチカン美術館の収蔵する彫刻作品の中で、この「ヴェルヴェデーレのトルソ(胴体)」と呼ばれる壊れた胴体をとても気に入っている。はじめて見たときはさほど思っていなかったのだが、近年見る度にその圧倒的な存在感に圧倒される。
紀元前二世紀の名工、アポロニウスの手によるヘラクレスの一部とされている。背中にまとっていた毛皮の爪が残っているのがネメアのライオンだろうという事でしょうな。
この作品は十六世紀から法王の所有で、ミケランジェロはその作品を修復することを求められた。当時の修復とは、壊れた胴体ならそれに相応しい手足を付けることを意味するが、「私にはとてもこの胴体につける手足はつくれません」とミケランジェロは断ったと言われている。
筋肉隆々大好きのミケランジェロにしてそう言わしめるだけのものなのだ。いや、彼の筋肉隆々好きの元はこの作品かもしれない。
ふと、天井を見上げると、「あれ?あそこに描かれたヘラクレスの胴体横はまさにこのトルソそのものではないか?」間違いない。
十六世紀からこの場所に置かれ続けていると、周囲の建物の方がこのトルソの付属物になっていっている。
ボルゲーゼ美術館所蔵の、ベルニーニ作「アポロとダフニ」の置かれた部屋の天井にも、彫刻にあわせた絵が描かれていたっけ。