伊丹の老舗酒造家屋の店先に、植物を丸くした玉が吊り下げられていた。(写真上)
「これは毎年新酒が出来るとそれを知らせる為にこうして軒先に吊るした杉玉ですよ」という説明。
『新酒が出来ると入り口に吊るす』というとオーストリア、ウィーン郊外のワイン酒場ホイリゲとそっくりの習慣だ。ただ、こちらで吊るされるのはヤドリギである。(写真下)
※「ホイリゲ」というのは「今年の」というドイツ語から出来た言葉。
ヨーロッパが日本の習慣を真似たのでもなく、日本がヨーロッパの習慣を取り入れたのでもない。ならば、なぜ似たような習慣があるのか?
「新酒が出来たのを知らせるのなら張り紙か宣伝看板でも出せばよのじゃないでしょか?」という疑問がわけば、洋の東西で同じような習慣が発生した理由がわかってくる。
杉玉もヤドリギも日を経るに従いだんだんと緑色が褪せていき、茶色に変化してゆく。それとともに新酒も醗酵の度合いを高めていっている。酒は生き物だから味は少しずつ変化している。
若い酒はワインでも日本酒でも、熟成した酒とは違う味わいがあり、それを好む人も多い。若い酒が好きな人は、杉玉やヤドリギの緑色がまだ濃い店を訪れる方が、好みの若酒が手に入りすいという事なのだ。
なるほど「新酒あります」と看板に書かれているよりよっぽど気が利いている。
「でも、この杉玉はラッカーで色塗られてしもて、ずぅっと緑色ですねん(笑)」
杉玉の習慣を今でも守っている造り酒屋はあるのだろうか?
オーストリアのホイリゲでも、単なる飾りとして一年中ヤドリギ飾りを出している店が多くなっている。