朝9時クヴォルスヴォートゥルのホテルを出発。
ここからレイキャヴィクまでは一時間半ほどの距離である。
途中、二日目にも立ち寄ったクヴェラゲルジの市内を回る。三十年程前、アイスランドではじめて地熱発電を世帯の暖房に使い始めた先駆の町である。
地熱の元は四日目に訪問したヘトリス発電所と同じ。ちょうど山を越えた逆側になる。
地震の時、突然家の真下から温泉が噴出した家があった。アイスランドの家は必ず地震や火山の保険に入っているが、家の中から温泉が噴出した時の保障はしてくれず、その住人は自費で新しい家を建てることになった。
気の毒に思った町の住民がみんなで寄付をしてくれたのだそうである。
レイキャヴィク市内に入り、市街をバスでまわる。
国会は由緒ありげながら、ほんとにこぢんまりした建物。六十数人の国会議員ならばこれで充分なのだろう。「アルシング」としっかり書かれてあった。
港の周辺は旧市街の雰囲気がしっかり残っている。
ノルウェーの田舎によくみられるような、ヴィクトリア朝の木造住宅がその雰囲気をつくりだしている。
港に大きな帆船が停泊していた。
これはロシア海軍の練習船だそうで、はじめてアイスランドに寄航しているという。一般アイスランド人、観光客にも、入場料をとって内部見学させていた。
周辺には海軍の制服を着たロシア人らしい人たちが見られた。
町のランドマークであるハットリグリムス教会は滞在しているホテルの近くなのでバスではわざわざ行かない。それに丁度改修中で足場が組まれており、写真で見た印象的な姿ではないのである。
最後にレイキャヴィクを見晴らす丘の上へ。
丸い柱がガラスのドームを支えた面白い建物がある。
柱は給水塔になっており、ガラスのドームはペルトランという高級回転レストランになっているのだそうだ。
青空で穏やかな日になった。
正午少し前、ホテル・バロンに到着。
部屋には入れないがスーツケースと手荷物を預けて、午後からの「溶岩洞窟探検ツアー」に備える。不参加の四人の方も町へはすぐの場所である。
有能なドライバー・ガイドをしてくれたヒャルティさんとはここでさようなら。彼自身がアイスランドの印象を決めてくれたと言っても過言ではない。心から感謝しています。
**
12:30
ホテル前に「溶岩洞窟探検ツアー」の迎えのバンが来る。
その後いくつかのホテルを回り、バンは満員でツアーの出発場所に到着。
各自チェックイン確認をすませて、いよいよ溶岩原へのバスに乗り込む。
出発して町を抜け、三十分ほど走ってゆく。少し居眠りして目覚めると、あたりは荒涼たる景色にかわっていた。
バスは不意に停車。しかし、洞窟なんてどこにあるのだろう?
降りると午前中の青空はどこへやら、小雨が降っている。
総勢三十人近くのメンバーそれぞれにオレンジ色のつなぎが支給される。日本人なら「子供用」が丁度よさそうだと思ったのだが、あいにくそんなものはない。すそを捲り上げたり、腕のところを折ったりしてなんとか間に合わせる。
ヘルメット+ライトも各自自分でセットする。
こういう準備は全て自分でしっかりやる。日本のツアーみたいに手取り足取りはしてくれない。
溶岩原を歩く。
緑色のコケが、固まった溶岩の表面を覆っているのが見えていたが、これを踏むとふわりと柔らかい事がわかった。雨が降っているので滑らないように気をつけないと。尖った溶岩はやすりの様な凶器でもあるのだから。
しばらく行くとぽっかりと洞窟が口をあけていた。
ここがどれくらいの長さなのか、内部がどのように区切れているのか、どのぐらいの高さや幅なのか、さっぱり分からない。
ガイドさんが、約三百メートルと言ったが、それが長いのかどうかさえも分からない。
がらがらの足元に気をつけながら、一列で奥へ進んでゆく。
道はまったく平坦などではない。高さも狭いところはしゃがんでいくしかない。
そして、しばらく奥へ入ると、外界の光は全く届かなくなる。
時折、広くなっているところでガイドが止まり、鍾乳石や溶岩について説明してくれる。 迷い込んだヤギの骨があったりもした。
もう、どこからどのように入ってきたのかさっぱり分からない。
迷子になったら、このヤギのように骨になってしまうだろう。
「それじゃ、皆さんいっせいにライトを消しましょう」
というアトラクション?もあった。光が全く入らない闇というのは、時間が経っても目が慣れてくるということが無い。
ずぅっと以前、チェコの褐炭採掘場で経験した闇を思い出した。
三十分は経っただろうか?あるいはそんなには経っていないかもしれない。
真っ暗な洞窟を這ったり(ほんとうにそうしないと通れない場所がいくつもあった)くぐったりしながら進む。入ってきた方向へ戻っていると認識しているが、同じ道なのかどうか分からない。
と、幾度目かの狭い割れ目を潜り抜けると、向こうに地上の光が見えた。ああ、やっと光の世界だ。
まだ小雨が降っている溶岩原に出てくると、出発地点に全く逆の方向から帰ってきていた事に気付いた。
我々の方向感覚なんてたいしたものではない。
***
夕食。
アイスランドと日本、それにノルウェーぐらいでしか食べられないものを試してみたかった。鯨である。
ヒャルティさんに教えてもらっていたところへホテルから電話をしてもらう。鯨はいつもあるとは限らないから・・・残念ながら今日はそこにはない。
「ちょっとまって心当たりをあたってあげる」
ホテルスタッフは三軒目に見つけてくれたレストランに予約を入れてくれた。
その店は結構近かった。
鯨に限らず、グリルの専門店で、自分で選んだ食材をどのように焼いてほしいか、付け合わせを何にするか、記入する用紙が各自に配布される。
一番上には自分の名前を書くところまであり、お皿を持ってきたウェイトレスはその名前を呼ぶのである。
鯨、牛肉、海老、を各自注文。
それぞれ悪くなかったが・・・全員一致で一番おいしかったのは、コニャックとディル・クリーム入りのロブスターのスープであった(笑)