ローマより帰国便に搭乗の日。
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「コロッセオの本当の名前を知ってるか?」
と、かつてローマの英語ガイドに質問された事がある。
コロッセオはその場所にかつてあったネロ帝の巨像を指した言葉=コロッソからついた通称。その事は聞き知っていたが、本当の名前がなにかを考えた事はなかった。
アンフィ・テアトロ・フラヴィウム
アンフィ=両側、テアトロ=半円劇場、つまり、ギリシャ時代からの劇場がふたつくっついたイメージ。
そして、フラヴィウスはヴェスパシアヌス帝が始祖となるローマのひとつの王朝名である。
ネロ帝死後、混乱する帝位をやっと安定させたのがヴェスパシアヌス帝であった。
皇帝になるような出自でなかった軍団たたき上げの皇帝。
彼はこの顔からも滲み出ている庶民的な気質だったとされる。
端正なアウグストスとは全然違う、この鼻の欠けた気のいい叔父さんふうの肖像がぴったりに感じられる。
彼の治世十年の間にコロッセオは着工されたのである。
今回コロッセオの中でベスパシアヌス帝の展示会をやっていたのだが、半日観光の最中では残念ながらそれをゆっくり見る時間はなかった。