今月11日、プラハの夜。
レストランからホテルに戻る頃、ぽつりぽつりと雨が降りはじめていた。
「夜景散歩に出ますか?」
カフカ的迷宮プラハの町を雨の夜に歩くのもきっと心に残る体験に違いない。
旧市街の端のユダヤ地区はすぐ近く。
ここはそう遠くない時代に苦難に遭った人々が多く住んでいた場所で、今でも多くのシナゴーグ(ユダヤ教会)が存在している。
中でもひときわ目を引くのがこの「旧・新シナゴーグ」。十三世紀に新たなユダヤ人居住区が認可された時に建設されたものである。
かつてはここより古いシナゴーグがあったのでこちらは確かに「新」だったのだが、十九世紀により古いシナゴーグが建て替えで壊されてしまい、今ではこちらが現存する最古のものとなっている。だから「旧・新」なのである。ややこしい。
この屋根裏には伝説の人造人間ゴーレムの体が置かれているという伝説がある。
ラビ・レーヴにより泥から作られた人造人間ゴーレムは、やがて暴走し凶暴化するが、最後に額の呪文の文字を変えられて動かなくなる。その肉体がこのシナゴーグの屋根裏に収蔵されているというのだ。
雨の夜、黄色い街灯にうかびあがる十三世紀のシナゴーグは、そんな伝説がリアルに感じられる姿をしていた。