カトマンズから4時間半ほどのフライト。
広州とのあいだには2時間15分の時差があるので、まだ暗い午前5時の空港は雨がふっていた。
早朝でがらんとしたターミナルを誘導されていくと入国の係官へ行くように指示された。あれ?乗り継ぎのはずなんですが・・・。
タイ航空からの振替旅客も一度全員パスポートをチェックされるが、入国はせずに押し戻される。パスポートは乗継便のための用紙と共にCZ(中国南方航空)の係員にそのまま回収されていった。
押し戻されたタイ航空からの振替旅客は五十人ほどいる。8割以上は日本人。空港の中国人係官はなまりのある英語でつっけんどんに我々を扱う。座る椅子もなく「そこで待て」。
しばらくすると係官が戻ってきて日本のパスポートを開き、ひとりの名前を読んだ(呼んだ)。しかし、誰からも反応がない。
アルファベットで書かれた日本語の名前というのは外国人が発音すると、元の日本語の名前とは違って聞こえてしまうものも多い。※たとえば「小野」も「大野」も同じく「ONO」と表記される。
そばに居た私はつい首をつっこんしまい、代わりに読んで(呼んで)差し上げた。※それ以降何度かのタイミングで、僭越ながら通訳代わりをする事になった。
呼び出された彼女は、ひとりだけ名古屋へ帰る予定の人だった。
東京大阪と違い、彼女の便は上海から出るという。つまり広州→上海については国内線での移動になるわけだ。
彼女だけはこれから入国カードを書き、国内線のターミナルへ行く事になる。係員は英語でそれを説明するのだが、やはり慣れない人にはどうしたらよいのか戸惑だろう。
*
パスポートを持っていかれている我々は、上階へ誘導される。
全員座れる椅子はない場所だ。
CZの係員はパスポートを集めたものの、それと共に荷物の預け札を集める必要があったのを思い出し、私に「どこだ?」と聞いてきた。
「そんなの人によってちがうでしょうー。必要なら最初から言えばいいのに。」
ポケットをあちこち探す人もある。
そして束になったパスポート毎に荷物札を確認する事になり、ついには床の上に並べて皆がそれを選び出す。
なんだかカルタのような状況だ。
こんな場所でこんな時間にパスポートでカルタをする事になるとは思っていなかった。やれやれ。
整理がつくのに十五分ほどかかった。
「ここで一時間ほど待って」と英語で言い残すと、CZの係員はさっと消えていった。椅子も充分にはない。トイレの場所ぐらいは伝えてくれるとよいのだが、そんな配慮もなく、結局自分達で訊いて探した。
窓の外は明るくなってきている。
ガラス張りの屋根をどうどうと雨が伝っている。かなり大降りの夜明けである。
一時間半ほどの後、別のCZ係員がやってきた。
「それではパスポートと搭乗券お渡し致します」と流暢な日本語。
失礼、ほんとに日本人のスタッフでほっと致しました。
荷物検査を受け、ようやくお店やレストランのある場所へ入る。
結局あのなにもない場所に二時間以上は留め置かれたのだった。
ま、この場合、とにかく帰国便に乗せてもらえるだけでありがたいと思わなくてはいけないのだろうけれど。
関空、成田、共に10時半発の空いたフライトに乗り込み、予定の15時には成田に到着した。