昼前、大阪でラジオを聞いていると「バンコク空港が暴動で閉鎖されている」ときこえてきた。
今晩カトマンズへ行く途上にバンコク空港で乗り継ぎする予定。きのうのニュースでは旧空港のドンムァンだけの閉鎖だったのが、昨夜暴徒が新空港のスワンナプーム空港へも乱入し、今朝からすべての離発着がストップしてしまったという。ラジオでは関空へ帰る予定の観光客が「一晩空港で明かしました。 状況がどうなっているのかも全然分からず、いつ帰れるのか不安です。」と話していた。
我々が関空から乗る予定の飛行機は、まさにこのインタビューに答えていた人が乗ってくる予定の飛行機である。こりゃあ、たいへんだ。
すぐに航空券を手配してくれている担当者に電話。
状況をしらべてもらうと、現状はまだ欠航になっていないとのこと。
しかし、かなりの可能性で今晩タイ航空が飛ばないように思える。
カトマンズへ行くために、バンコク経由以外の路線空席状況をしらべてもらう。現在カトマンズへ直行便は飛んでいない。香港経由のキャセイパシフィック、北京経由の中国航空がよくある乗継だが、果たして空席があるのか?タイ航空はすんなり振替に応じてくれるのか?
関空のタイ航空カウンター前についたのは20時前だった。もともとの出発時刻は24時半なので誰もない。近くにいた人にきくと、21時半ごろにはだれかくるだろう、との事。
少しでも早く話が出来るように待っていると、20時半にチェックインスタッフがやってきた。
カウンターで話す事ができたタイ航空の制服を着た人は、「すみません」でもなく、無表情に「キャンセル証明」を渡し、ただ我々に引き取るように求めた。宿泊ホテルを用意したり、代替便を手配する意図は全くない。これは、予想していた対応である。
※写真はそのキャンセル証明。理由にPolitical Reason Anti-Government Action=政治的理由、反政府行動とある。この場合には保険適応外となる可能性大。
こういう時、カウンターのスタッフに怒りをぶつけても、事態は全く解決しない。 ほとんどのスタッフはタイ航空の職員ではなく、請け負っているだけの別会社職員である。どんなに言ってもマニュアル通り丁寧にお断りされるだけである。
まずは、彼女に我々がカトマンズまで行くことが目的である事を理解してもらう必要がある。同じ「バンコク空港へ行けない」という状況であっても、一人ひとり目的は違う。当たり前だと思うかもしれないが、空港のカウンターで対応している職員はそんな事は知らない。だからこそ、そこまで理解してもらえればだいぶことは進展したといえるだろう。
さらに、キャンセルされた便の代わりにどのような選択肢があるかを、こちらで調べて知らせる。
「そんなのは航空会社の責任だろう」と言ってしまっては、自分が窮地に陥るだけである。今晩この時間(20時半)以降にカトマンズまで乗り継ぐ事が可能な航空便はあるのか?
航空券手配会社からの情報で、今晩可能な代替はただひとつ、カタール航空でドーハ経由でカトマンズへ向かう便であると分かっていた。
23時半に関空を出るカタール航空に乗ることができれば、ドーハで4時間半の乗継にはなるが、本来到着すべき時間の4時間後にはカトマンズに到着できるのだ。そして、これには本日両便に空席がある。
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日本で同様のトラブルが起きた時、よく空港や駅で怒鳴る人を見かける。
これで言われた相手が「申し訳ありません」と対応するのが日本流。
だが外国での場合(あるいは外国系航空会社の場合)怒りをぶちまけてもシラッと受け流されるだけだ。
対応している職員だって、ある種被害者なのである。
「そんな事はない!自分の会社だろうが!!」と怒るのは、終身雇用をあたりまえと思ってきた旧日本人。最近は日本だって現場を請け負っているのは、ハケンか契約社員なのだ。マニュアルやアイテナリーどおりに対応する事を求められるそういうスタッフに怒りをぶつけることはほとんど無意味ではないか。
そして、人を怒らせると絶対に協力してはくれない。
自分の状況を伝え、さらに言われた人の立場を理解し、その人に出来る最善を求める。事態を好転させるにはこれしかない。この二十年各種トラブルに遭ってきた私が学んだ事がこれだ。
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「念のためその便名と時間をメモさせてもらえますか?」
さっきマニュアルどおりに「欠航証明」を渡したタイ航空職員はそう訊いてきた。
カタール航空という代替便が可能である事を知らなかったのだ。
カウンターの職員は姿の見えない「上司」に電話をかけはじめた。
はらはらして待つ事十分、彼女はそっと「それでは手続きできるようになりました」と告げてくれた。 カウンターに姿を見せ始めたほかの搭乗予定者に聞こえないように、である。