デンマークの画家ハンマースホイの展覧会へ。
1864年生まれの彼は早熟。
展覧会の最初に掲げられていた二十歳過ぎの頃に妹を描いた作品は、後年の作品とそれほど変らない完成度があるように見えた。
ずうっと同じタッチで描き続けている。そう、生涯にわたって画風がほとんど変化していない。ピカソのように○○の時代といえるような変化はない。ゴッホのように明確に影響を受けて変化する時期も見当たらない。
今回の展覧会の展示方法がテーマ別であり、画家の年代に沿っていない事で、その変化の少なさがよりよく分かる。静かな風景を、少し構図を変えながらも、繰り返し描いている。
対比されて分かる事は、同じ室内を描きながら、だんだんと実際にある風景と違って描かれている事だ。つまり、現実にはありえない世界が構築されている。
NHK「日曜美術館」で解説されていたように、同じ机の影が別々の方向に出ていたり、ピアノが壁にめり込んでいたりする。
見ていてそれを不快やアンバランスに感じない事が重要である。
多分、何度も描いているうちに「このかたちのほうが美しい」「こうだったらよりバランスがよい」と気づくようになり、その感性に忠実に画いているうちにシュールな世界になってしまったのだろう。
ダリやルネ・マグリットのような「シュール」を目的にしたものとは全く違うように見えた。
もしもこれらを製作年代順にならべたら・・・あまり面白くない展覧会になっていたかもしれない。
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絵を描く時に最大の要素は「構図」かもしれない。
ハンマースホイははじめ大きなカンバスに描き、あとからその一部を選んで切り取っていったのだそうだ。
作品の端に黒い直線が見えているものがいくつもあったのがその証だと説明されていた。おもしろい。
彼はカンバスのサイズにあわせて構図を決めたわけではなかった。構図にあわせてカンバスを切り取っていた。だから、既成の額ぶちではちょうどはまらずに、切り取りの為の黒い線がのこってしまったというわけだった。
最後の展示室にあった一枚の絵は、画面上端のドアがゆがんでいたのだが、これは「大きめの額にむりにあわせるために引っ張った結果できたゆがみ」ということだった。
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ハンマースホイが生きた時代は世界中で写真が普及し始めた時期にあたる。「叫び」で有名なノルウェーのムンクはハンマースホイよりひとつ年上なだけだが、写真を撮ってそれを見ながら描いた作品がたくさんあったことが近年明らかにされてきている。ハンマースホイもまた写真を撮っていたようである。そう考えて作品を見ていくと、あたかも写真をとるように構図が決められているのに気づく。
おこがましい話だが、自分がこの室内を撮るのならこう撮っただろう、と思わせるのである。