パリ市内をバスで観光中、細い道を走っている時、二台前を走っていたトラックが止まった。運転手が下りてくると荷台を開けて巨大な積荷を機械で降ろし始めた。
レストランの前で、その注文の品を搬入しているようだ。一車線の道路である。迂回できないので当然後ろの車は渋滞する。よくあることなのでみんなあわてない。「ウララ〜」ぐらいは言うけれど、クラクションをパーパー鳴らしたりはしない。
日本なら「何やってんだ!」と罵声が飛ぶだろう、「人の迷惑かんがえろ!」と言われることだろう。でも、パリでは誰も声を荒げない。このぐらいで癇癪起こしていてはヨーロッパでは生きていけない。(ま、日本以外では生きていけない)
荷降ろしは手間取っている。
あまりに荷が重いので、載せたパレットが店の前の歩道にあがらないのだ。
ひとりで荷降ろしに奮闘するのを見て、バスの運転手が降りていった。「なぁにやってんだよ」ぐらい言ったけれど、結局荷物を一緒に押しはじめた。店からも一人出てきて手伝う。
文句を言うのでなく手伝う。
やがて荷物は歩道にあがり、運転手は後続の車に会釈するでもなく、申し訳そうな顔ひとつしないで運転席に戻った。
無事にトラックは出発。この間十五分ぐらいはかかっただろうか。
我々のすぐ前の車、トラックのすぐ後ろの車の運転手は結局一度も車を降りず、クラクションも鳴らさず、待っていた。