ドブロブニクの総督官邸の居室に掲げられた文字。
「公(おおやけ)を司るときには、私(わたくし)を忘れよ」
と訳せるモットー。
ドブロブニクはベネチアのように一人に権力が集まる事を極度にきらった。その徹底振りはベネチア以上で、代表者の任期はたったの一月! ベネチアのトップはたとえ形式であるとはいえ終身だったのだから違いは大きい。
ドブロブニクの代表になると、その一月の間はこの宮殿に缶詰にされ、家族とも会えない。私用は禁止され、公用以外の外出もありえなくなる。
そして、毎日この標語を読まされるのである。
ドブロブニクの人々は人間の弱さをよく分かっていたのだろう。どんなに高潔に見える人間でも自分の権益を忘れるというのは簡単ではない。「それは一月ぐらいが限度」と思っていたのかも。
実際ベネチアの歴史では、一度だけではあるが総督自身が国を売り渡そうとした事件が起こっているのだから。