きっと自分の手で描いた事だろう。
膨大な量の、しかも大作を描いていたルーベンスだから弟子任せで描かせた絵も実際かなりの数になると思うのだ。
その弟子にしてもヴァン・ダイクの様に肖像を描いては師匠を超えるのではないか?と思わせる人さえいるのだし。
しかし、アントワープの美術館で出遭ったこの「聖トマソの不信」を中央にした祭壇は、きっと自分の手で描いたに違いない。
友人夫妻の注文で、両サイドに描かれているのがその友人自身。亡くなった後に本人達の墓碑がわりにこの祭壇を置かせたのだそうだ。いつも弟子任せのルーベンスだって、そんな事情を友人から聞かされて製作するのだから、自ら筆をとらないわけにはいかない。
実際この絵はルーベンスの多くの作品で見られる豪華絢爛さは、ない。それよりももっと真摯な人物描写で見る人をひきつけていく。
カラヴァッジョ的な暗闇の空間に弱めのスポットライト。そこにヴァン・ダイク的律儀さで「友人夫妻」を描いているルーベンス。
こんなルーベンスならもっともっと見ていたい。