今朝おきてもまだ雨は降り続いている。
朝食、静かなレストランの窓から谷間の向こうの崖がうっすら見えているが、正面上にあるアイガーの山頂は全く雲の中になる。
「しかたない、天気が良くないのは別に自分のせいじゃない。展望台から真っ白で何も見えなくても、雨の中ハイキングする事になっても、与えられた日程どおりに動くのが『添乗員さん』のお仕事。」
「会社が決めたことを添乗員の判断で変更して、もし何かあった時には責任取れないので・・・」
ハイキングガイドさんは言う。
「雨でも花の説明は出来るし、途中で少しは視界がひらけるかもしれない。みんな予定どおり歩いてますよ。鉄道の予約もあるし、変更なんて出来ないでしょ。」
それに、今日の行程を変更して山の代わりに湖のクルーズに行くには交通費が+¥6000程かかる。それは参加の皆様に追加負担してもらわなくてはならない。そんな出費を求めて後からクレームをもらったりしないのか。
すべてごもっとも。
悩む・・・。
しかし、真っ白でなんにも見えないシルトホルン山頂に今朝上がるべきなのか?雨の中ぐしょぐしょに濡れて歩くより楽しい旅の選択が他にあるのじゃないか?
明日朝は良い天気になりそうなのだ。
明日朝晴れた青空をみながら「ああ、一日ずれていたらなぁ。今日はきっと見晴らし良いだろうに」と嘆息しながら村を離れるのはつらい。
なにもホテルを変えようというのではない、明日と今日の行程を入れ替えるだけ。それで、一生一度しかこないかもしれない皆さんにすばらしい山が見てもらえる。それはとても大きなプレゼントになるに違いない。
出来ない理由などいくらでも考えつく。
大事なのは、可能性を実現する為の最大限の努力をすること。
よし!明日の晴れを信じて変更しようじゃないか。
幸い今回の人数は8名。
ここまでの数日で、皆さんが前向きに旅を楽しむ気持ちでいっぱいなのはよく分かっている。「行程変更したいのですが」とお知らせした時、全員が気持ちよくOKを出してくださった事にほんとうに感謝したい。
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そうと決まれば動きは早くなくてはならない。
現地のガイドさんに列車や船の時間を調べてもらう。乗り継ぎやその切符代金はいくらなのか?どう買うのがいちばん効率よいのか。
今入っている昼食の予約をどうするのか(実はこれがいちばんたいへんだった)。手配をしてくれているチューリヒに何度も電話する。
雨の日に楽しいのはどこか?
クルーズする湖に面した崖にある聖ベアトゥスの洞窟にもせっかくなら行こうと考えた。
乗継時間をしらべ、さぁ、インターラーケン西駅から洞窟行きのバスに乗ろうとしたところ、バスの運転手が「今日は閉まってる」と教えてくれた。あまりに降り続く雨に洞窟内の川が危険な水量になった為らしい。
※この写真はその後トゥーン湖上からみた聖ベアトゥス洞窟入り口。すごい水量の滝が茶色の水を噴出していた。
一度乗ったバスからあわてて降りた我々。さて、どこへ行く?
さっき乗った列車の行き先だったシュピーツの町はどうだろう?
以前バスから見下ろしたシュピーツの古城が思い出された。あそこからなら湖上遊覧の船にも乗れる。
急遽、列車でシュピーツの町へ行く事にして、インターラーケン東駅から西駅へ移動する列車を探す。
あった!しかし列車の出発まで4分しかない。
私は切符を買いに走り、ガイドは皆さんを連れてホームへ行く。
切符の窓口でやきもき順番を待ち、手に入れた切符を持ってすぐにホームへ走る。駅員に言われて上ったホームにはドイツ新幹線ICEが停車している。
え?この列車?
と思ったが、三両向こうの今しも発車しそうなICEのドア前で待っているガイドさんとメンバーが見えた。
あわてて走って行こうとすると「乗ってのって!」と向こうが手で合図。一両手前の車両に飛び乗ると、間一髪すぐにドアが閉まった。
ドイツ新幹線でもスイス走行区間ではこうして自由席利用が出来るなんてはじめて知った。次の停車は西駅。乗車時間はたったの10分ほど。おトイレだけ借りましょ(笑)。
インターラーケン西駅からはトゥーン湖畔を行く普通列車に乗りシュピーツへ。トゥーン湖の湖面は雨の日でも美しいエメラルドグリーンをしている。雲は低く山は見えないが対岸の崖をたくさんの滝が流れ落ちている。
シュピーツの駅は少し高台にあった。
以前、バスから見下ろした記憶どおりの古城が眼下の町はずれに見えた。グリーン・ミシュランガイドブックにも★ひとつで載せられている町である。なんでも読んでおけば役に立つ日がくるものだ。
小雨の町へおりていく。月曜の午前、歩いている人も少ない。坂を下っていくと城への道標が我々を導いてくれる。シュピーツの古城は12世紀に遡る起源を持っている。スイスの古い貴族ツェーリンゲンの分家筋のものだったのだそうだ。
城に残るロマネスク風の礼拝堂がその時代を伝えてくれている。
乗船時間まで一時間ほどの時間を、日本人ツアーなどやってこないシュピーツの小さな町で過ごした。
「どこへ行くか分からない。スイス、ミステリーツアーねぇ」と誰かが言ってみんなで笑った。
シュピーツから湖上遊覧でインターラーケン西まで一時間二十分ほど。船は濁流がおちてくる聖ベアトゥス洞窟の前にも立ち寄った。轟々とすごい勢いで水が落ちてくる。ここへ来る事にならなくてよかった。ポストバスの運転手さんありがとうです。
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ミューレン村に戻ったのは13時半過ぎ。
思ったより早かったので、伸ばしに伸ばしてもらった昼食を予定のレストランで食べる事が出来た。村の上にあるアルメントフーベルの丘の上。ケーブルカーに乗って14時03分に到着。
食べ終えて遅い午後。
雨はほとんどあがり、ミューレン村までをゆっくり歩いて降りる。「世界の写真」にUPしておいた牛にとうせんぼされたのはその時のことであった(笑)。
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夕方遅く、20時半頃。この二日全く姿を見せてくれなかったアイガー、メンヒの山頂に夕日が当たっているのが見えた。まだまだ雲がからんだ山頂ではあるが、明らかに天気は快方に向かっている。
よし!明日は晴れる筈だ。