レッド・キャニオンの岩の上部に朝日が当たり始めているのを見て、なんとかそこへたどり着きたくなった。
もともとそんな予定はしていないのだから、別に山へ登るような靴を履いていたわけでもない。しかし、まだ日のあたらない暗くて寒い駐車場から見上げると、朝日に輝く赤い岩が呼んでいる様に見える。上へ登ると、雪の残る森やもっと遠くの岩山の頂も見えてくるだろう。
たいして時間もなかったので、道も選ばず登り始める。
足元はご覧のような瓦礫で、踏み込む度にがらがら崩れる。上がるにしたがってどんどん斜面は傾斜していき、いつのまにか両手を使っていた。
つかまろうとする木は、さわると痛いとげとげした常緑樹。手袋をしてくれば良かった。手を切らないように気をつけながらつかまり、さらに上を目指す。
ようやく頂上付近の岩の塊が近づいてきて、自分の体にも太陽の光が当たりだした。暖かい。温かさが背中からじわじわしみてくる。
この時、頭と背中は光が当たっていたけれど、足元はまだ日陰だった。今、目の前でゆっくりと日陰が後退し、自分の靴元が太陽の中に入ってゆく。
頂上は近い。
しかし、足元を動かす度に瓦礫が崩れていく。
目の前の頂上は、上ることが出来なくはない。しかし、降りる時がとても難しく見えた。
感情は登りたがっているが、「ひき返すべきだ」と理性が言った。