アメリカ西部の唖然とするような絶景に言葉を失いながらも、心のどこかで今頃見ごろになっているだろう日本の桜の事を想っていた。
今日、永田町での説明会を終えてから、知らずに足が皇居堀を歩いていたのはそういう事なのだ。
国立劇場前を過ぎたあたりから、桜の花はまだ充分な見頃であるのがわかってきた。今晩は夜の風が強いけれど、それに舞う桜吹雪も風情がある。
千鳥淵が見えてくる頃、堀の向こうのほうまで並木がライトアップされているのが見渡せた。堀にはボートも浮かんでいる。まわりはだんだんと人が多くなり、いつのまにか整理の人も出ている。
「はい、左側通行にておねがいします」
歩道並木が二つにわけられて、靖国神社方面から来る人が掘側をあるくようなシステムだ。
道路側を歩いたが、道の向こうにはイギリス大使館。
その先の建物のテラスに人がたくさん集まっているのが見えて、バグパイプの音色が聞こえてきた。どうやら本場の人々の集まりであるようだ。「セント・アンドリュース協会」と英語表示の幕がさがっていた。セント・アンドリュースはもちろんスコットランドの守護聖人。バグパイプの音楽が終わると遠く拍手が立ち上がってくるのが聞こえた。
夜桜とバグパイプで、日本の春に間に合った喜びが心に湧いてくる。