グランド・キャニオンの底へはラバでしかいけないと思っている人が多い。ラスベガスからの日帰りツアーでガイドさんがそう説明していたりする。
国立公園エリアへは確かにヘリコプター定期便は飛べないが、ハバスパイ村は国立公園エリアの外。ごく少数ではあるが、部族の人の後にヘリに乗って谷底の村を訪れることが出来るのだ。
ラフリンを朝出発した我々は10時45分にはスーバイヒルトップという、グランド・キャニオンの谷を見下ろすヘリポートへ到着していた。
太陽は暖かいが風は強い。
早く谷底の暖かい村へ降りて行きたい。
しかし、このヘリはあくまで村人のためのもので、観光客が乗れるのは村人が全員終わってからというきまりになっている。
ヘリは一回に6名程度の人しか乗せられない。おまけに村にとっての必要資材も運ばれていく。なんども往復するヘリを目の前にしながら、ワンちゃんとたわむれたりして待つ我々。※この村はほんとに犬天国でした
1時間ほどしてようやく順番がまわってきたと思ったら、不意に車がとうちゃくしてハバスパイ村の家族が降りてきた。もちろん彼らが優先となる。
結局我々全員が3台のヘリに分乗して谷底に到着できたのは13時半。谷底に日が射し込む良い時間にハバスパイ滝へ出発しなくてはならない。
ただ一軒のロッジにさっと荷物を降ろし、ただ一軒のカフェでぱりぱりになったトーストにはさまれたBLTサンドをかじり、早々に出発した。
クローディアスという部族の人の案内で馬に乗って行く。
エルビスの映画「ブルーハワイ」にも登場したハバス滝までは、歩いても三十分ほどで往復できる距離なのだが、ここで馬に乗って歩くのも楽しい。日本の「○○牧場」で馬子に引いてもらう馬に乗るのとはぜんぜん違う。自分で手綱を持っていくのだ。
初めての乗馬で不安の向きもあるだろうが、しばらくすると馬と二人の旅にも慣れてくる。歩くよりも数段たかい場所から見る風景もすばらしい。
午後の光に照らされた赤い岩のがけを見上げながら、8頭は川へおりてゆく。コロラド川の本流まではまだ40kmあるが、ハバスパイ村を下がったあたりからは伏流水が地上へ出てきている。小川にかかる木の橋をわたりながら流れをみると、とても青く澄んでいる。
ここは石灰質をたくさん含んだ水らしく、石灰棚が流れをとどめているのも見えた。つまりトルコのパムッカレ、中国の九寨溝、はたまたクロアチアのプリトビッチェと同じ水質だということだ。
赤い岩谷底の緑の木々、そしてこの青い水というコントラスト。グランド・キャニオンという奇跡の景観の底に、これまた奇跡のように美しい流れがある。
川の流れに沿ってさらに降りていく。流れが視界から消えてしばらくして、こんどは滝の音がきこえてきた。岩の崖をまがると、不意に音が大きくなった。そして突然ハバスパイの滝が右眼下に姿を現した。
「これは…なんと…」圧倒的な登場の仕方に言葉を失う。これまで見てきた世界中のどの滝よりも強烈な印象を与える滝であった。