ランスのシャンパン会社「マム」の社長と画家フジタの間に親交があった話を知るうちに、ひとつ、見たくなった絵があった。
それはフジタが描いたシャンパンのラベルである。
1958年のパリのエリゼ宮・大統領官邸の晩餐会でそのラベルがついたシャンパンが使われた。フジタの描いたラベルは、その時シャンパンそのものよりも招待客の人気をよび、多くの人が空瓶を持ち帰るのを希望したそうである。
「バラを持つ少女」が描かれていたというそのラベル。
私が読んだ記事にはほんの小さな写真しかなかったので、いったい本物はどんなものか見てみたくなったのである。
そのラベルを注文したマム社にならば、あるいは原画さえも保存されているかもしれないではないか。
シャンパン・カーヴの見学の時、英語ガイドでついてくれた女性はフジタの事をもちろん知っていた。けれど、そのラベルを見た事はないとの返答だった。
「でもね」
残念そうにしている私に彼女は続けた。
「フジタがデザインしたバラの絵が、今でもローズシャンパンのキャップに使われているのよ」。
それがどんなものなのか、すぐには思い浮かばなくて、その時はあいまいな反応しか出来ない小松だった。
見学が全て終わり、英語客が去り、我々日本人客がショップを物色している時に再びガイドの彼女がやってきた。
「ほら、これよ、さしあげます!」
一目瞭然。そこにはフジタのタッチで描かれたバラが、そのピンク色のキャップを美しく輝かせていた。
私にとって、ランスでの何よりのお土産は、もちろんこのキャップである。