「東京がこの時期こんなに暑いのは、いつもの事じゃないんだよね?」機内で隣に座った70歳のオランダ人が訊いてきたので、どう答えたらよいか考えてしまった。
「四、五年前なら『いつもじゃないです』と答えるところです」と言っておいた。
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「エスペラント語って知っているかね?」
彼は遠慮がちに訊いてきた。横浜では先週『第92回エスペラント大会』があったのだそうだ。ちっとも知らなかった。
エスペラント語というのはどこの国の言語でもない人造語である。19世紀終わり、ロシアに支配されていたポーランドで、ザメンホフという眼科医師が考案した。日本でも宮沢賢治などがその普及に努力し、故郷盛岡を「イーハトーヴ」=理想郷とエスペラント語で呼んだ。
エスペラント語は世界共通語として習得しやすく造られているが、どのくらい普及に成功しているかは疑問…そういったイメージを持っていた。
しかし、彼が言うには横浜での大会には57カ国から1900人の参加があり、日本人が何百人も参加したという。
「日本でそんなにエスペラント語が盛んだとは?」と不思議に思ったが、「オオモト・・・」が協力してくれているというのを聞いて理由がわかった。大本教の教祖出口王仁三郎がその普及に努めていたのである。
大本教ホームページによると、エスペラント語を大正12年(1923年)に大本教に導入したとある。世界平和を希求するという大原則は宗教とこの言語との共通項だったという事なのだろう。
だからだから、今でも大本教徒はエスペラント語の習得に熱心なのだ。どんな方向からでも世界に対して目が開かれていくのは良い事でありまする。
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しばらく喋っていると、そのオランダ人は「最近結婚したんだ」と言った。そして妻はセルビア人で、家でエスペラント語で話しているのだそうだ。日常にエスペラント語を使って生活しようとしている人がいるという事実は、60歳を過ぎて結婚するという事よりももっとすごい。
世界中からエスペラント語使いが集まって、どこの国の言葉でもないエスペラント語で楽しそうに談笑している光景は見てみたかったな。