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となりのウクライナ人
2007-08-01
ミュンヘンから東京へ行くルフトハンザ便。
やけに体格の良い白人男性と隣り合わせた。

トイレ行くにもたいへんだろうなぁ、「いつでも出ていいですよ」と声かけたところから、ぽつぽつ話をした。おたがいつたない英語での会話である。

「日本へは観光ですか?」
違うだろうなぁ、と思いながらそうきいてみた。

「横浜から船に乗るんですよ」
彼は「船」をSHIPといわずVESSELと表現した。
これは船舶関係者が用いる表現だ。
このムキムキさといい、彼は船員なのだとその時ぴんっときた。

機内誌の地図をひろげて出身地を指差したところは、黒海の北岸だった。「オデッサ(とてもそうは聞こえない発音だったが)。良いところだよ、もう引退したけれど父も船のキャプテンだったんだ。」

「実はきのうまでその家で誕生会をしていて、みんなが集まり夜通し騒いでいたんだ。 朝、やっと静かになって少し眠れるかと思ったら、もう出発しなきゃいけない時間。電車でキエフまで行き、そこからミュンヘンへ飛んで、またこの飛行機に乗っている。東京までは何時間かかるんだい?12時間!?これまで乗った飛行機で一番長いよ」

彼は日本がどれだけの距離にあるかもはっきり知らずにこの飛行機に乗せられている。ウクライナ人の船員にわざわざ飛行機で横浜まで来てもらう必要があるほどに船舶業界が好調だとは知らなかった。


「エージェントが空港で待っていて、そのまま横浜へ行くんだよ。だから始めての日本なんだけど、6時間ぐらいしかいないかも(笑)」

彼が船でどんな立場なのか、どんな風な仕事をするのか、どんな仲間が待っているのか、船の名前さえ私はしらない。知らないけれど飛行機に乗って行き来する人々は、我々のようなお気楽な観光客ばかりではない。

それぞれに違った人生のめぐりあわせて同じ飛行機に乗っている事にあらためて気づかされた。

***
入国書類をかくので取り出したパスポートの表紙が気になった。日本のものは天皇家の菊の御門。それぞれの国がその国を象徴する図柄をもってくるのがパスポートの表紙である。さて、ウクライナのこの印はなに?

「これはぁ、、『グラブ』だよ」
はあ、そうか、槍の先の事だ。今回スロベニアの国旗についている山を「トリグラブ」と認識したけれど、ここでもまた「グラブ」に出会った。ウクライナとスロベニアは地図上では遠く離れているけれど、同じスラブ語族だから単語はけっこう似たものが多いという事か。

紙幣を取り出してそこにあるウクライナ最初の王もみせてくれた。
「ウクライナはKINGじゃなくて『KNEZ』が治めていたんだよ」
ああ、これも今回読んだ本で遭った単語である。オーストリアとスロベニアの国境付近、ドイツ語でケルンテン州といわれているあたりにはかつてKNEZの治めている国があり、ある石の上で戴冠する行事があったとか。その石はクラーゲンフルトの博物館にあるらしい。KNEZクネーズと統治者を呼ぶならわしもスラブ族にみられる慣習か。スラブが以前よりも少しだけわかる気がしてきた今回の旅であった。



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