ジュネーブの美術館最上階に一部屋をつかってデンっとしゅつげんするこのオブジェを見たら、誰でも立ち止まってしまう。大方の現代アートと称するものが最初我々に与えるのは「異物感」である。
こういったほとんどの「異物感」は、ゆっくり見ていってもあまり楽しい気分にさせてくれない(ものが多い)。
それに比べるとこのティンゲリーの作品は意表をついてくる。
動くのである。この作品も足元にあるスイッチを踏むと、突然全体がガランガランと大きな音を立てて動き始める。その動きにはあまり意味はないが、とにかくもユーモラスで滑稽な感じさえ漂わせている。
額縁や展示室に埋没する様な作品ではない元気さが嬉しい。
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ジャン・ティンゲリーの廃物利用の動く彫刻をはじめてみたのは15年以上も前だった。思えば当時はバブルで宝石見本市を見学する日本からの業者さんのツアーに毎年行っていたのがバーゼルだった。バーゼルはティンゲリーの住んでいた町なのである。
私は何の前知識もなくバーゼルの美術館に入った。ゴッホの絵があるから・・・ぐらいの興味で。しかし、その美術館の一番大きなスペースを我が物顔で占領しているティンゲリーのガラクタたちにびっくりした。さらにそれが大音響で動き出すのを見て嬉しくなってしまった。
当時彼はまだ生きていた。
1991年の訃報が日本の新聞にも小さく載りそれを切り抜いてある。
今や彼は亡き巨匠となってしまい、バーゼルには彼の作品を集めたミュージアムが開館しているのだそうだ。是非、この冬《手造り》クリスマスツアーで時間をつくって訪れてみたいと思っている。