機内で見た映画「300」。
まるで怪獣映画であった。ペルシャ群が繰り出す動物や怪人たちはあまりにハリウッド的。ダレイオスはいかれたゲイのようで、配下の変な面を被った“不死身軍団”とやらは、まるで仮面ライダーのショッカーの様。全編に渡り切り刻み殺しまくる映像のオンパレード。
これをしてスパルタの英雄レオニダスの物語というには、ちょっと躊躇する。ギリシャでヒットしたそうだが、ほんとのところギリシャ人は大笑いしたんじゃないかと思う。
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紀元前480年のあの戦いの舞台、テルモピレイには何度か行ったことがある。わずか数百のスパルタ兵がペルシャの大群をここで数日食い止めたのは史実であり、その命をかけた戦いは二千年以上を経ても語り継がれている。その場所には19世紀に大規模な記念碑が建てられ、除幕式には当時のギリシャ王も列席したそうである。
はじめてこの碑を見たときには、テルモピレイの戦いについての知識はほとんどなかった。親切なギリシャ人運転手が「この道沿いに有名な記念碑があるから止まるかい?」と聞いてくれたので、あわてて調べたのが始まりであった。
石碑に刻まれた戦いの様子を見ても、どちらがギリシャ方でどちらがペルシャ方かさえもすぐに分からなかった愚か者であった。そこに立つレオニダス王についても、恥ずかしながらベルギーのチョコレートブランドの名前として知っていた程度であった。
その後毎年その場所を訪れるたびに、少しずつレオニダスが何者かを知るようになった。
ある時おじいちゃんが孫を連れてきて、その碑をみせながら何事かを話して聞かせているところにもであった。そうしてレオニダスがギリシャ人の間に語り継がれていく大事な人なのだと分かった。
はて、振り返って我が日本。そんな伝統がどれだけ受け継がれているだろう?明治維新も第二次大戦も二千五百年前のテルモピレイにくらべればほんのきのうのような出来事である。それなのに、はるか遠い時代のように感じてしまうのは間違っていないか? そんな風に教えこまれてしまっていいのだろうか。
上野の神社で彰義隊の壊滅して行く図画を見せながら、それについて孫に語って聞かせるおじいちゃんに出会ってみたいものである。そんなおじいちゃんになりたいものである。