音楽を手に入れるのが簡単になった昨今、一枚のディスクの一曲一曲を舐めるようにして聴いていた高校時代が遠く感じられる。あの頃、昼食代をけずって買ったレコードは、ほんとうに身を削るようにして聴いたものだった。

聴き方も、当時は当然レコード盤に針をおとして聴く。聴き始めると、そう簡単に次の曲に飛ぶなんて事もできなかった。今なら「ピッ」と指先にちょっと力を入れるだけで次の曲に飛んでしまえる。つまり、最初の十秒で聞き手に何か感じさせないと、その先にいくらいいものがあってもそこまで聴いてもらえないという事になりかねない。今の時代は四半世紀前とは音楽に相対する人間の忍耐力が違うように思う。

そうして自分もまた短気に音楽を聴いているひとりなのだが、最近iPodで音楽を聴くようになって少し状況が変わってきたのを感じる。つまり、iPodでは歩きながらだったり自転車に乗っていたり、なにかしながら音楽をかけているので、それほど短期にならずに音楽に対していられるのだ。

そして、流れるがままにいつもはじっくり聞いていない曲までいっていて、ふと気がつくとそれがえらくカッコよかった事に突然きがつくのである。なにかを「しながら」聴いている事によって、飛ばしてしまっていた曲を再発見するわけだ。