午前ブリユッセル半日観光。朝8時半にホテルを出たときにはまだ暗くて、夜明けの青い町並みに街灯がついていた。グラン・プラスと有名な「しょんべん小僧」までは徒歩にて。バスに乗りサンカントネールと王立美術館を見学し、美術館内で12時に解散した。王立美術館は古典も近代もあまりに幅広いコレクションなので、好きな人には目移りしてしまう場所だ。それで、ここを最後にもってきたのである。
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昼食をミュージアム・カフェのバッフェで軽く食べる。注文するとフライパンでフェテチーネにペスト・ソースをからめてくれる。ジュースのディスペンサーのような口でコップに白ワインを注ぐ。トレイにを手に移動し背の高い椅子にすわると、窓ガラス越しに雨に煙る教会の屋根が見える。落ちてくる雨粒がみえる降り方だ。今日は朝からずっと冷たい雨の一日。午後はどうしようか。
雨の日に始めてブリュッセルに来た人も楽しめる場所。話をきいたら行きたくなる場所とは何だろう?「世界遺産指定!アール・ヌーボーの建築家ヴィクトル・オルタ邸を訪ねる」なんてキャッチフレーズは魅力的じゃないですか?(笑)。オプショナルツアーでも組めそうな?(爆)。でも、今日は小松も始めていくので、ろくに案内できそうもないので、ただの道案内ということでお連れいたしまする。
美術館のすぐ前から93番(だった?)のトラムに乗る。乗り口で運転手さんに1ユーロ50セント払って切符をかいましょう。最高裁の前を通って、ブランド店のならぶルイーズ広場からさらに三駅ほど乗る。
下車してアメリカ通りを探すと、二筋目ぐらいで見つかった。曲がって100メートルも行かないうちに、この写真の邸宅が目に入ってくる。左の縞々のじゃなくて、その右手の黄色い鉄のフレームの二軒続きがそれ。ガウディのようなぐにゃぐにゃさはないが、窓周りなど特に、まわりの建物にくらべて控えめだがセンスのひかる造りである。
1898年、37歳のオルタはこの二つ並んだ建物の土地を購入し、自分の仕事場と住居となる建物を設計した。1861年ゲント生まれ。ガウディより9歳下なだけでほぼ同じ時代を生きたといえるだろう。ガウディのような派手さがないのは、ベルギーとスペインという国民性の違いのようにも感じられる。
内部は鉄とステンドグラスをうまく組み合わせて、明るい空間がつくりだされている。特に建物中央を貫くらせん状に登っていく階段の中央部は明るい。天井からの外光が下まで入ってくる「光の井戸」になっている。このスタイルは紀元前1400年の建造と言われるクレタ島のクノッソス宮殿でも見た。
美しいこの階段はしかし、使用人には使わせていない。仕事場や生活空間には必要以上に入らせない為に、使用人が利用するための階段は実は裏側に別に設置されていた。そこは公開されていなかったが、いわば快適な生活の裏舞台とでもいうのだろうか。今でも階級差のあるヨーロッパ社会だが、百年前ならもっとそういう住み分けはきびしくしていたのだろう。オルタの厳しく、きっちりした性格も感じられる設計である。
仕事机の横の戸棚にも、彼のせっかちな面を表すものが取り付けてあった。本棚のような小さな扉を開けると、そこに男性用の小便器が取り付けられていたのである。