アテネから一時間半ほどいくと、1870年代にシュリーマンが発掘したミケーネ遺跡がある。
ここのたたずまいの素晴らしさは、実際に目にして見なければわからない。二つの山に挟まれた丘。そこに積み上げられた紀元前15世紀以前の巨石城壁。これを見上げるとき、誰でもシュリーマンの視覚を感じるのではないだろうか。
このミケーネの遺跡の「底力」とでもいうべきものを知ったのは、レオナード・コットレルという20世紀の英国人が書いた紀行本、邦題「エーゲ海文明への道」(1953年に出版)からだった。
旅行記というにはかなり込み入った考古学的な説明もしてくれていて、このミケーネには裏門近くに秘密の井戸が隠されていると書いてあった。コットレル自身がそこに入っていく下りがわくわくさせてくれる。
その記述を読んでから、私もツアーの短い自由時間毎にそのあたりを探して歩いていた。しかし、遺跡はどこもよく修復中で、以前きた時には「ここか?」と思われたところは立ち入り禁止になっていたのだった。
さて、今日は?
地元の英語ガイドは「あそこは入れないわよ」とのたまったけれど、行ってみる。何事も自分で確かめて納得しなくちゃね。
すると、おや?入れるようじゃありませんか。
この写真の様に、石積みの三角形の穴がゆるやかに地中へ落ちていっている。中に明かりはなかったが、立ち上がってくる湿度から、それが確かに地中の水源への道に違いなかった。
こういう場所へ少しでも近づく事の喜びを知ると、考古学の魔力からますます離れられなくなってくる。