ロワール川の古城の中で、最も美しいといわれるのが川にかかるように建てられたシュノンソー城である。それは確かに私もそう思う。
ここは歴代の実質城主が奥方達であったので、女性的な雰囲気につくられている。そして、現在管理に当たっているのも女性なのだそうだ。各部屋に、それぞれ趣向の違った花が置かれていたりするのもそれをうかがわせる。
パリからの一日観光だと、全部の部屋を見ないことも多いのだが、実はこの3階に真っ黒に塗られた部屋がある。
ここは、暗殺されたアンリ3世の奥方、ルイーズ・ド・ロレーヌが毎日白い喪服を着て、余生を祈りに捧げた場所である。他の部屋と比べて、入った瞬間に空気が変わる様な雰囲気になっているのだ。
今回パリからの日本人ガイドではなく、トゥールからの英語ガイドがついたので、各城のかなり突っ込んだ事を質問しても、しっかり返答してくれて嬉しかった。
で、ひとつ驚いたのは、実はこの「黒い部屋」は、もとあった場所から移動させられていた、という事実を知った事だ。
ルイーズ・ド・ロレーヌが喪に服した「黒い部屋」は、もともとは、この写真で城の一番右の部分にある礼拝堂の横にあった。
なるほど、祈る為には近い方がいいから、理解できる。
しかし、十九世の持ち主が修復を試みた時には、主亡きその部屋はぼろぼろになっていたので(そりゃ、そんな部屋を使いたい人はあらわれないだろうから、残っていただけでも驚くべき事でしょう)、やむを得ず天井だけオリジナル材を利用して、3階に再現する方法を取ったというのだ。
へぇ〜!へぇ〜!
「80へぇ」ぐらい差し上げたい!
私はずっとこの部屋はオリジナルの場所にあるのかと思っていた。
古いヨーロッパのものを見ると、つい元のままになっているように信じがちだが、実際にはかなりの部分修復で変化しているものが多い。
修復史というのも、充分歴史になるほどであるから、我々はいつも注意深く事実を認識していかなくてはならない。