ツェルマットの老舗ホテル「モンテローザ」の壁に掲げられている英国人登山家エドワード・ウィンパーのプレートである。
このプレートには書かれていないが、この1865年7月14日は、初登頂の後に起こった、彼にとっても登山史にとっても忘れる事ができない悲劇の日なのである。
8度目の挑戦で悲願の登頂を果たしたウィンパー行7人は下山をはじめた。その直後、先頭から二人目が足を滑らせて滑落、それに引きづられて4人が1000メートル以上落下していった。
リーダーのウィンパーと他のメンバーを繋いでいたザイルは二種類あった。滑落した4人との間を繋いでいたザイルは細く、残りの2名とウィンパーを繋いでいたザイルは太かったのだ。
逆に言うと4名を繋いでいたザイルが細かったので切れてしまい、3人は命拾いをしたのである。
程なく生き残った三人の目の前が白く輝きだし、その光の中に三つの十字架が出現した、生き残った三人はこの「神の出現」に心を打ちのめされた。
現在では「ハイラム・ブロッケン現象」として知られているものだが・・・このタイミングでこれを見た三人はどれだけの畏怖に打たれたことだろうか。
ウィンパーはこの様な7分の3の幸運によって下山し、このプレートに刻まれているのである。