上野国立博物館の表慶館において、ただ一点「サテュロス」だけの展示。
これでよいのだ、集中して見られる。
巨大な博物館でいつも思うのは、あまりに収蔵品が多すぎるという事。
本来ならば、それ一点で充分に三十分でも時間を費やすべき作品なのに、たくさん並びすぎている。今日はこれだけでいい。
あまりたくさん「ご馳走」が並んだ食卓では、一品一品のおいしさが薄れてしまう。ちょっとちがうかな?
展示環境は、まず、良い。
ギリシャ風円柱が取り囲む円形のホールの中央に、からだを旋回させるようにサテュロスがいる。難を言えば、髪の毛や顔を近くで見ることができないという事だろうか。
跳ね上がった左足は、前年にすでに海から引き上げられていたという。
これがあってよかったなぁ、というのが正直な感想。
もしこれが両手両足共に欠落した姿であったなら、この躍動感はだいぶん削がれてしまっただろう。
バチカンにある有名な「トルソ」の様に、それだけでももちろん表現力があるボディだけれど、やはり足一本あるかないかは、大きい事だ。
もしも、この先海底に残されただろう手足が見つかったとしたら、どのように構成されていたのか、大変興味が湧く。
修復家の想像のようになっているのか?
あるいはゼンゼン違ったりするのかもしれない。
事実はたいていの場合想像を越えている。
背中のお尻の上あたりに、明らかにはじめからあけてあったと見える穴があった。これは尻尾がつけられていたんだそうな。サテュロスは半人半獣なのだった。
こういう展示会の図録は、写真もさることながら、いろいろな最新の研究を踏まえた意見が載せられていて興味深い。
結局この像の制作年代や作者、オリジナル性などは、簡単にいってしまうと不明なのだが、何人もの専門家が少しずつ違った意見を載せていた。
★この写真は図録の写真です。
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気が付くと、会場に屈強なボディガードらしき人が何人も立っていた。
見ると、そこに某政治家K氏が見学に来ていた。
学芸員がつきそって、こまこまと説明を垂れていた。
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外へ出ると、車椅子できている方があり、たった4段の階段の為に入場できないでいた。この建物は古くてスロープがないのである。
居合わせた係員の人が「背負っていきましょうか」と申し出たけれど、「いや、図録だけください」と答え、結局その人は「サティユロス」には出会えなかったのである。